| 1.腹圧性尿失禁
2.性器脱(骨盤臓器脱):膀胱瘤、直腸瘤、子宮脱(膣断端脱)
はじめに
女性の社会進出や生活の多様化に伴って、直接生命に影響することは少なくても、生活の質( Quality of Life: QOL )を大きく損なう疾患が注目されるようになって来ました。泌尿器科に関連する女性特有の QOL 疾患(女性泌尿器科学)としては、骨盤底機能障害が最も頻度が高く、かつ重要な疾患です。これら骨盤底機能障害の内でも、腹圧性尿失禁や性器脱の罹患率は高く、多くの女性において社会生活の障害となり、 QOL の重大な阻害因子であることが漸く知られるようになってきました。しかし我が国では、女性泌尿器科学の分野は泌尿器科と婦人科の狭間を漂っている状態が長く続き、漸く研究会が創立され緒に着いたばかりです。一方、米国では 20 数年前から準専門分野として Urogynecology ( 女性泌尿器科学 ) が確立した歴史があります。
当科は、本邦における女性泌尿器科学、特に新しい手術手技の導入に積極的に関わり、その普及に貢献してきました。ここでは、腹圧性尿失禁と性器脱(特に膀胱瘤)に対して当科で行っている手術療法を中心にまとめてみました。
1.腹圧性尿失禁の手術(スリング手術)
本邦では、 1980 年代に Stamey 法などの経膣的針式膀胱頚部挙上術が一時隆盛を極め、本邦における腹圧性尿失禁治療への取り組みが本格化するきっかけを作りました。しかし、 1990 年代後半に発表された米国泌尿器科学会 (AUA) ガイドラインレポートなどにより、針式膀胱頚部挙上術は長期成績が不良であり、開腹式膀胱頚部挙上術とスリング手術の成績が優れていることが判明しました。したがって、今日では手術の低侵襲性や簡便性などから、 TVT a などの経膣式尿道スリング手術が主流となっています(図1)。尿道周囲コラーゲン注入術は、侵襲性が低く、簡便ですが、成績はあまりよくありません。しかし、何度でも繰り返し行うことが出来るという利点があります。特殊な症例(先天性疾患、外傷など)では、自己筋膜を用いた開腹式膀胱頚部スリング手術や人工尿道括約筋( AMS800 )設置術などが必要になることもあります。 |
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経膣式尿道スリング手術
スリング手術は、テープ状に切り出した自分の筋膜(腹直筋や大腿長筋)や人工線維(ポリプロピレン)で出来たテープで尿道を支える術式です。今日では、侵襲性や簡便性の観点から、ポリプロピレンテープを用いた経膣式尿道スリング手術 (Mid-urethral sling) が主流となっています。
a) TVT (Tension-free Vaginal Tape) 手術: Integral Theory ( Ulmsten, Petros )に基づいて開発された TVT 手術が今日では最もスタンダードな手術法となっており、 90 %程度の良好な治癒率が示されています。前膣壁の小切開創から穿刺針を挿入して、恥骨後面の骨盤腔を通して下腹部にテープを引き出します。局所麻酔で、外来手術としても実施可能ですが、当科では入院(約3〜4日)の上、静脈麻酔と局所麻酔を併用して実施しています。手術時間は 30 分〜 1 時間以内です。
b) TOT (Trans-Obturator Tape) 手術: TVT などの従来の経膣式スリング手術では、膀胱穿孔( 2 〜 7 %)、血腫形成( 0.5 〜 2 %)、術後排尿障害( de novo detrusor instability: 10 数%)などの合併症が少ないながらも報告されています。これらの合併症を克服するために、穿刺針が盲目的に骨盤腔内を通過する危険性を最小限にして安全性を向上させる術式が考案されました。 TOT 手術は、螺旋状に湾曲したイントロデューサー(穿刺針)を用いてポリプロピレンテープを閉鎖孔に通す術式で、欧米で急速に普及しつつある新しい術式です(図2)。本邦では、
本邦では、当科をはじめとした先進医療機関から導入され、漸く全国に普及し始めており良好な成績が報告されています。手術時間は、 TVT 手術よりも若干短くなっており、合併症はほとんど報告されていません。
(当科での実績)
1)純粋な腹圧性尿失禁
経膣式尿道スリング手術( TVT 、 TOT )、後腹膜鏡下膀胱頚部挙上術( Burch 法)
最近では、経膣式尿道スリングのうち TOT 手術を治療の中心に据えています。
2)先天性脊髄疾患(二分脊椎など)
開腹式膀胱頚部スリング手術(自己筋膜を使用)
3)患者希望、高リスク(心・肺機能障害、高齢)症例、男性尿道括約筋外傷
尿道周囲コラーゲン注入術
4)男性尿道括約筋外傷
人工尿道括約筋 (AMS800) 埋設術
2.性器脱(骨盤臓器脱)の手術
子宮あるいは膣が、膣外に翻転脱出してくる疾患を総称して性器脱(骨盤臓器脱)といいます。子宮以外では骨盤内臓器(膀胱、直腸、小腸)が膣壁を被って脱出することになります(膣脱:図3)。
前膣壁:膀胱瘤、尿道瘤
後膣壁:直腸瘤
膣上部:(子宮が存在する場合)子宮脱(小腸瘤)
(子宮摘出後の場合)膣断端脱(小腸瘤)

治療法
治療法には、二つの方法があります。
@ リング状の器具(ペッサリー)を膣内に挿入する( 3 ヶ月毎に定期的に交換)
ペッサリーの膣内挿入を希望される場合は、婦人科に紹介しています。 A 手術療法
当科は手術療法を担当しています。最近では、後述する従来の部位別手術に加えて、骨盤臓器脱(性器脱)を全体として修復する人工線維(ポリプロピレン)メッシュを用いた最新の術式である TVM 手術( Tension-free Vaginal Mesh )を行っています(図4)。
1)膀胱瘤
膀胱と膣の間にあり膀胱を支えている膀胱膣中隔(恥骨頚部筋膜)を縫縮補強する前膣壁形成術を行います。しかし、重度の膀胱瘤では再発率が高いことが知られています。当科では膀胱後面にポリプロピレンメッシュ( GyneMesh® )を挿入することによって膀胱膣中隔(恥骨頚部筋膜)を補強する形成術や TVM 手術(図 4 )を導入して良好な成績を得ています。
2)直腸瘤
直腸と膣の間にある直腸膣中隔を縫縮強化する後膣壁形成術を行います。重度の直腸瘤では、ポリプロピレンメッシュを用いた TVM 手術を合わせて行うことにより補強を強化することができます。
3)子宮脱、子宮下垂、膣断端脱
膀胱瘤などに合併した子宮脱や膣断端脱に対しては、当院婦人科とも相談しながら、経膣的子宮摘出術と膣上端の仙棘靭帯固定術を合わせた手術方法や子宮頚部切断によって子宮の温存が可能な修復術を行います。
しかし最近では、膀胱瘤や直腸瘤と同時にポリプロピレンメッシュ( GyneMesh ® )を用いて膣全体を正常な位置に修復する最新の術式である TVM 手術を用いて子宮を温存することが多くなっています(図4)。
5)その他
高齢で、心臓・循環器、呼吸器などに合併症を持っている高リスク症例では、侵襲の少ない膣閉鎖術( Le Fort 法)を行う場合があります。
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